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誰か一人を犠牲にすれば、全員が助かる。あなたなら、誰を選ぶだろうか。夕木春央による『方舟』は、講談社から刊行され、週刊文春ミステリーベスト10 2022国内部門とMRC大賞2022で第1位を獲得した衝撃作だ。2023年本屋大賞第7位、啓文堂書店文庫大賞2024第1位にも輝き、数々の栄誉に包まれている。

主人公の柊一は、友人と従兄と山奥の地下建築を訪れる。そこで偶然出会った家族と、地下建築「方舟」で夜を過ごすことになった。翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれ、水が流入し始める。いずれ「方舟」は水没する。そんな矢先に殺人が起こった。誰か一人を犠牲にすれば脱出できる。タイムリミットまでおよそ1週間。生贄には、その犯人がなるべきだ。犯人以外の全員が、そう思った。
著者・夕木春央は、2019年に「絞首商會の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞してデビューした。それまで大正時代のミステリーを書いてきた夕木に、担当編集者が初めて現代ものの執筆を依頼したとき、「あたためていたアイディアがある」とその内容を聞き、「なんて恐ろしいことを考えるのかと愕然とした」という。
夕木は、ミステリーには探偵が「謎を解かねばならない」と思うための切実な動機が大切だと語る。本作には、まさにその理念が貫かれている。閉ざされた空間、迫りくる水位、そして殺人。極限状態に置かれた9人は、生き延びるために犯人を見つけ出さなければならない。この設定だけでも息が詰まるほどの緊張感だが、物語はそこで終わらない。
作家の有栖川有栖は、本作について「極限状態での謎解きを楽しんだ読者に、驚きの<真相>が襲いかかる。この衝撃は一生もの」と評した。読者からも「あぁ、何て後味の悪い。どの道でも後味が悪いのは確かだな」「パニック、サスペンス、サバイブが1冊に収まっていた」といった声が寄せられている。
タイトル決めも難航したという。脱稿した作品を読んだ担当編集者は、「これは夕木さんの代表作になるに違いない」という確信を持ち、作品の大切な顔となるタイトルについて何度も話し合った末、潔く『方舟』と決めた。この簡潔なタイトルが、物語の本質を見事に表している。
公式サイトには「極限状況での謎解きを楽しんだ読者に驚きの〈真相〉が襲いかかる」と記されている。つまり、ミステリーを解く楽しみの先に、さらなる衝撃が待っているということだ。まだ読んでいない方は、ぜひお早めに『方舟』にご乗船を。この一生ものの衝撃を、ネタバレに遭遇する前に体験してほしい。